「婦人科がんサポーティブケア研究会」の発足にあたって この度、「婦人科がんサポーティブケア研究会」を発足する運びとなりました。本会の設立にご尽力いただいた関係者の皆様に心より感謝申し上げますとともに、ここに代表世話人としてご挨拶申し上げます。 近年、婦人科がん領域における治療法は目覚ましい進歩を遂げ、多くの患者さんががんと共に生きる、あるいはがんを克服する時代となりました。しかし、その一方で、私たちは治療の光が強まるほどに濃くなる影の部分にも目を向けなければなりません。手術、放射線治療、薬物療法といった強力な治療は、患者さんの身体的・精神的・社会的な側面に様々な影響を及ぼし、その人らしい生活(QOL:Quality of Life)を大きく損なうことがあります。 婦人科がんの患者さんは、疼痛や倦怠感といった一般的な苦痛に加え、リンパ浮腫、排尿障害、性機能の変化、妊よう性の喪失、そしてボディイメージの変容といった、女性としての人生観を根底から揺るがしかねない特有の課題に直面します。これまでのサポーティブケアは、こうした個々の症状に対応することに主眼が置かれてきました。しかし、患者さんが抱える問題は複雑に絡み合っており、断片的なケアだけでは十分な支援とは言えません。 そこで私たちは、この複雑な課題を乗り越えるための新たな羅針盤として「脆弱性(Frailty)」という概念に着目いたしました。脆弱性とは、単に身体が弱いということではなく、ストレスに対する回復力が低下し、心身の機能障害や要介護状態に陥りやすい状態を指します。がん治療という極めて大きなストレスに立ち向かう患者さんは、年齢にかかわらず、誰もがこの脆弱性に陥るリスクを抱えています。 本研究会では、この「脆弱性」を「診断(評価)・治療(介入)・社会支援」という一連のサイクルで捉え直すことを提案いたします。 まず、多角的な視点から患者さん一人ひとりの脆弱性を「診断」し、抱えている問題点を明確にします。次に、運動、栄養、心理的アプローチなどを組み合わせた個別化された介入によって「治療」を行い、心身の回復力を高めます。そして、医療機関の中だけで完結するのではなく、退院後も地域社会で安心して生活を続けられるよう、介護・福祉サービスなどと連携した「社会支援」の体制を構築することを目指します。 このサイクルを回していくことこそが、患者さんが治療を最後までやり遂げ、治療後も自分らしく輝き続けるための土台となると確信しております。 本研究会は、このビジョンを実現するため、医師、看護師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士、臨床心理士、医療ソーシャルワーカーといった多職種の専門家が職種の垣根を越えて集い、知見を共有し、共に学ぶプラットフォームとなることを目指してまいります。そして、科学的根拠に基づいたサポーティブケアの実践と研究を推進し、その成果を広く臨床現場へ還元していく所存です。 婦人科がんを患うすべての女性が、尊厳を失うことなく、希望を持って未来を歩める社会の実現へ。私たちの挑戦はまだ始まったばかりです。この趣旨にご賛同いただける多くの皆様のご参加を心よりお待ちしております。
婦人科がんサポーティブケア研究会 代表世話人 吉田 好雄
「婦人科がんサポーティブケア研究会」の発足にあたって
この度、「婦人科がんサポーティブケア研究会」を発足する運びとなりました。本会の設立にご尽力いただいた関係者の皆様に心より感謝申し上げますとともに、ここに代表世話人としてご挨拶申し上げます。
近年、婦人科がん領域における治療法は目覚ましい進歩を遂げ、多くの患者さんががんと共に生きる、あるいはがんを克服する時代となりました。しかし、その一方で、私たちは治療の光が強まるほどに濃くなる影の部分にも目を向けなければなりません。手術、放射線治療、薬物療法といった強力な治療は、患者さんの身体的・精神的・社会的な側面に様々な影響を及ぼし、その人らしい生活(QOL:Quality of Life)を大きく損なうことがあります。
婦人科がんの患者さんは、疼痛や倦怠感といった一般的な苦痛に加え、リンパ浮腫、排尿障害、性機能の変化、妊よう性の喪失、そしてボディイメージの変容といった、女性としての人生観を根底から揺るがしかねない特有の課題に直面します。これまでのサポーティブケアは、こうした個々の症状に対応することに主眼が置かれてきました。しかし、患者さんが抱える問題は複雑に絡み合っており、断片的なケアだけでは十分な支援とは言えません。
そこで私たちは、この複雑な課題を乗り越えるための新たな羅針盤として「脆弱性(Frailty)」という概念に着目いたしました。脆弱性とは、単に身体が弱いということではなく、ストレスに対する回復力が低下し、心身の機能障害や要介護状態に陥りやすい状態を指します。がん治療という極めて大きなストレスに立ち向かう患者さんは、年齢にかかわらず、誰もがこの脆弱性に陥るリスクを抱えています。
本研究会では、この「脆弱性」を「診断(評価)・治療(介入)・社会支援」という一連のサイクルで捉え直すことを提案いたします。
まず、多角的な視点から患者さん一人ひとりの脆弱性を「診断」し、抱えている問題点を明確にします。次に、運動、栄養、心理的アプローチなどを組み合わせた個別化された介入によって「治療」を行い、心身の回復力を高めます。そして、医療機関の中だけで完結するのではなく、退院後も地域社会で安心して生活を続けられるよう、介護・福祉サービスなどと連携した「社会支援」の体制を構築することを目指します。
このサイクルを回していくことこそが、患者さんが治療を最後までやり遂げ、治療後も自分らしく輝き続けるための土台となると確信しております。
本研究会は、このビジョンを実現するため、医師、看護師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士、臨床心理士、医療ソーシャルワーカーといった多職種の専門家が職種の垣根を越えて集い、知見を共有し、共に学ぶプラットフォームとなることを目指してまいります。そして、科学的根拠に基づいたサポーティブケアの実践と研究を推進し、その成果を広く臨床現場へ還元していく所存です。
婦人科がんを患うすべての女性が、尊厳を失うことなく、希望を持って未来を歩める社会の実現へ。私たちの挑戦はまだ始まったばかりです。この趣旨にご賛同いただける多くの皆様のご参加を心よりお待ちしております。
婦人科がんサポーティブケア研究会
代表世話人 吉田 好雄